『日本語通』山口謠司著新潮新書

 この本をパラパラとめくっていたら、次のことが目に入ってきました。

 また、仏教の「空」という思想を完成させたという竜樹(およそ一五〇~二五〇頃)は、インド人の名前ではナーガールジュナという。これは、「ナーガール」の「ル」を「竜」、「ジュナ」の「ジュ」を「樹」と、音を漢字の近似音で写したものである。(『日本語通』山口謠司著新潮新書38)

 またすこし注意して、斜め読みをしたら、次の文字が目につきました。

「チーズ」寺と「チーズ」天皇
「醍醐」と聞いて、すぐさまワインやフランスパンを思い浮かべる方はほとんどないだろう。ふつうは「醍醐天皇」あるいは「醍醐寺」を思い浮かべられるだろうか。
「醍醐」とは、「チーズ」の漢語なのである。唐代、およそ七世紀後半にサンスクリット語dadhi(ダッデヒィ)を訳したものとされる。(『日本語通』山口謠司著新潮新書140)

「醍醐」の場合も「酒」の部首がどちらにも付くから、なにかしらお酒のような発酵したものであることは想像できる。じつさいに「醍醐」は、中国でも、チーズという意味以外に、「味の薄いお酒」などという言葉としても使われていた。(『日本語通』山口謠司著新潮新書144)

醍醐(チーズ) (『日本語通』山口謠司著新潮新書146)


 これら二つのうち、「龍樹」に関することは明らかにまちがいです。「醍醐」については、「チーズ」ではないだろうし、サンスクリット語で「ダディ」だというのは初めて見ることであったので、新潮新書編集部あてに質問書を出しました。
 数日して著者から返事をいただきました。

 その後、もう一度見直していると、次のことが目に入ってきました。

 たとえば、「般若波羅蜜多心経」というお経があるのだが、これは、インドのサンスクリット語「Prajnaparamita-hrdaya-sutram」を、漢字で音借したものである。(『日本語通』山口謠司著新潮新書70)

 「サンスクリット語「Prajnaparamita-hrdaya-sutram」」の部分は、『日本語通』のページで確かめていただきたいのですが、「n」の上には「~」が、一部の「a」と「u」の上には「-」があり、長音ですが、どうすれば表記できるのかわかりませんので、ここでは表記していません。原文には表記されています。
 「hrdaya」の「r」は母音ですので、下に点が付きます。読みとしては「リ」と読み、「フリダヤ」となります。点がないと「フルダヤ」と読むことになります。
 次の「sutram」の「u」の上には「-」が付き、「スートラム」と読みますが、「m」の上には点が付きます。
 経題は「プラジュニャーパーラミター・フリダヤ・スートラム」と読みます。「般若波羅蜜多心経」のうち、「般若」については、サンスクリット語では「プラジュニャー」ですが、パーリ語では「パンニャ」となっています。そのパーリ語の「パンニャ」を音写したものです。「波羅蜜多」は「パーラミター」の音写で、「心経」は「フリダヤ・スートラム」を中国語に翻訳したものです。
 ですから、一部は音写で、一部は翻訳したものというのが正しいのではないでしょうか。